ストレッチ論争の始まり
ここ数年、ストレッチは体にとって良くないという論争が起こっている。
多くのボディーワーカーがそのソースも確認せずに右に習えの状況である。
その発端は1998年のKokkonennらの研究や、デュエイン・ヌードソン教授が2013年、『ジャーナル・オブ・ストレングス・アンド・コンディショニング・リサーチ』に発表した研究あたりであると思われる。
この論文を要約すると、、、
17人の運動選手にバーベルスクワットを行ってもらったところ、事前に静的ストレッチをした場合、最大反復回数は8%落ちたうえ、下半身の安定度が23%落ちた。
競技前の静的ストレッチは筋力を平均5.5%弱めることを発見した。
つまり運動前の静的ストレッチは筋力が一層弱まり、パフォーマンスを落とすということである。
野生動物はストレッチをしないという話
「ライオンなどの野生動物は狩をする前にストレッチをしない。だからその必要はない。」、という話もある。
確かにそうだが、逆にライオンは車に乗ったり電車に乗ったりもしない。
何時間も椅子に座って仕事をしたり横になったままテレビを見ることもない。
野生動物は常に全身を協調させて動くがヒトは多くを固めて手先などの局所だけを使い始める。
生き方が異なるのだ。
ヒトはずるい身体の使い方をする
我々人間は何かに没頭し「じっとしているというタチの悪い運動」をしがちである。
体は常に最小エネルギー状態を好む。
その結果動く必要のない箇所は固めておいた方が都合がいいので筋肉や関節の可動性を制限し始める。
筋肉は短く硬くなり短縮という状態を引き起こすし、関節の可動域も狭くなる。座りっぱなしでいると腸腰筋が短縮してしまうように。
動きの偏りやクセからそれらを代償する新たな歪みも引き起こす。
ストレッチの効用
私が格闘技をやっていた10~20代にかけては相手の顔面を的確に蹴りたくて股関節や体幹のストレッチは念入りにやっていた。おかげでその気になれば自動販売機の上に置いた空き缶にもハイキックが届いた。
これは日々ストレッチをしていたからであるし、急や強度の強いストレッチは逆に筋肉が緊張し短く硬くなることも身をもって知っていた。
これは筋紡錘の伸張反射や血管の狭小化による祖血のせいである。
筋肉が短縮すると関節可動域が狭まるとともに、ユニットの重力下における傾きが変化するので姿勢のトルクも変化します。効率的な全身の使い方ができなくなる。
やはり筋肉は最大に伸びるべきだし関節可動域はプラスマイナス両方向にバランスよく大きい方がいい。
その意味では静的ストレッチも十分有効である。
そして、ストレッチは可動域や柔軟性をつくる以外に最も重要なことがある。
筋繊維の方向の再教育である。
筋肉のアプローチ方法や目的はたくさんある
人体解剖の際にMAXで筋肉にストレッチをかけて観察してみた。
筋肉の塊を覆っている筋膜(最もメジャーな深筋膜)に最大テンションをかけた状態と、深筋膜を剥がしてストレッチをかけた状態ではさほど筋長は変わらなかった。
ストレッチで外側の筋膜だけでなく筋原繊維や筋内膜や筋周膜もそれなりに伸びていた。
しかし筋肉はただ伸びればいいというものではなく、膜間の滑走性や弾性や粘性が必要なので、ストレッチ以外の他の要素のアプローチが必要になる。
ストレッチだけで施術を組み立てるのは無理がある。
要はストレッチは目的と対象者とタイミングが合えば十分効果的ではないでしょうか。
まとめ
・『ストレッチでパフォーマンス低下の論文』の多くは競技前のウォームアップについて述べている。
・ウォームアップ中に静的ストレッチを行うとパフォーマンスが低下することがある。
・「ストレッチは良くない」という字面だけ捉えてごっちゃになっている落ち着け(ココ重要)
・パフォーマンスを発揮しなければならない運動前と、フツーの人の日常動作としての運動とは決して同じではない。
・そして我々ボーディーワーカーが対象としている多くの人はそのフツーの人であるということ。
・筋繊維の再教育や可動性の向上のためにはストレッチを用いることは有効である。
・関節部位にストレスをかけるほどの強度のストレッチは良くない
・ストレッチにより逆効果を招くこともあるので術中はしっかりモニターしなければならない。